この話を始める前にパドル・オールと水の関係について少し話しておきたいと思います。
パドル・オールのパワーフェース(水切面)に押された水はその後どこへ行くのでしょうか?
意外かもしれませんが例外なく下に(正確には、下にずり落ちるように)流れます。
パドル・オールを水平に近い状態で操作しても、垂直に近い状態で操作したとしても流れの特性は変わりません。 こんな経験をされたのではないでしょうか。
グリーンランドタイプのような極端に細いパドルを水平に近い状態で操作している時に、もう少しパワーをと思うと自然にパドルは垂直に近い状態になっていたということはありませんでしたか。
これが『水の流れは常に下』の証明なのです。 これを数値にしてみましょう。今ブレードの幅10cm 長さを50cmとしましょう。
パドル操作により押された水が下に10cm流れた(ずり落ちた)とします。 (実際は次の新しい水が入る為空白なく連続し残念ながら黙視する事はできません。)
押し出された水は、連続的に水が流れ込まないとするなら、水平の状態では、ブレード上に水は全くありません。しかし、垂直に入れて操作した場合10cm下がってもまだ40cmブレード上に水は残っています。
その結果水平状態ではブレード上に水がない為負荷は0になります。 一方垂直状態では4/5の水が負荷となって残っていたことになります。
この負荷が反作用となってパドル・オールに力を与えるのです。
しかし、ブレードの回りには水が十分あるのでどの水でも押せば同じではないかと考える方もおられると思います。
ここでもう一つの視点としてブレードの上の水の流れの速さを見てみましょう。
先ほどのブレード上の水がなくなったり、一部残ったりするのは、ブレード上の水が完全に消え去るのに必要とする時間に差があるとも言えます。
例題のブレードでは10cmの刻みで言いますと5倍のちがいがあることになります。これも経験的な事を思い出していただきたいのですが。
自分の体力には小さすぎるパドルを力まかせに操作した場合、なるほどピッチは上がりますがボートスピードはそれほど伸びないことを記憶されているかと思います。
これはブレード上の水はピッチを上げる事によりより速いスピードで流れているのです。ピッチを落とすとそれなりのパワーが与えられたはずです。
これは水の流れるスピードが遅くなった結果と言えます。
以上の事から、理想のパドル・オールはブレード上の水を動かす事なく押し続けられる事が出来れば最善。これが無理なら少しでもブレード上の水の移動時間を遅くする機能があるものがよいと言えますでしょう。
それでは本題のディンプルがなぜ必要かと言う事になりますが。 ディンプルは水を素直に流さない為に必要なのです。
ディンプルの優れた点はブレードを水平から垂直の間のどの角度で入水してもディンプルは三次元球面
の一部で全方位に水のキャッチが可能であることです。これは前に述べましたようにブレード上の水は流れているから有効に作用するものです。
各メーカーはそれぞれの理論でブレードを三次元にカールさせていますが水の流れを遅くする事においては同じ理論です。が表面
を微細に見ますと平面の連続にしかすぎません。 しかしブレードをカールするとある方向には優れた効果 は出ると認められますが操作するにあたり一つの条件がつきます。
それは、設計時に予想した角度を常に保って時計のように正確に操作する事です。 ブレードと水の関係は常にキャッチ アンド リリースです。 キャッチだけでは柄杓です。
ディンプルパドルの良さを知っていただくのにキャリアは必要ありません。 技術でキャッチするのではなくキャッチを感じ取っていただければ十分かと考えています。